先生の秘密
いったい私は何を聞かされてるのだろう。
腹立たしさのあまり、涙が出る。
私との関係はなかったことにすると言ったくせに。
それを聞いて以来数ヶ月、私はずっと彼を諦める努力を重ねてきたのに。
本当は淳一も私を忘れてないなんて、頑張っていた自分がバカみたい。
好きだとにおわせるだけで、言葉にもできないくせに。
私を惑わせて、何がしたいの。
「私が好きなのに、中山くんを勧めたの? 好きなのに、他の男を勧めたの?」
淳一は苦り切った顔で私を見ている。
「あいつなら、信頼できると思った。さくらを守れるし、幸せにできると思った」
「……じゅんは?」
「俺はさくらに触れることすら許されない」
「じゃあ、私が他の男に触られてもいいのね?」
反射的に出た言葉が皮肉に満ちていて、自分の性格の悪さを痛感した。
次の瞬間、1メートルほどの距離が一気に縮んだ。
ほぼ同時に温もりと締め付けを感じ、心臓が暴れだす。
何が起こったのか、私はすぐにわからなかった。
「嫌に決まっとるやろ……!」
許されないことが、今、校舎の中で起きている。
「じゅん、私……」
「今度こそ忘れよう。お互いに」
淳一は私の言葉を遮って囁くなり、抱き返す間もなく体を離した。
五感を刺激されたことで、恋人だった頃の記憶が鮮明によみがえる。
抱き締められた感覚が、なかなかなくならない。
記憶の喚起を煽っておいて「忘れよう」だなんて、矛盾している。