先生の秘密
「わけわかんない……」
涙が溢れて止まらない。
嗚咽をこらえると、息まで苦しい。
「俺よりいい男と、幸せになれ」
淳一はそう言って、首にかけていたタオルを私の頭にかけた。
視界がタオルの色と影に染まる。
「勝手すぎ」
「そうだな」
彼がどんな顔をしているかわからない。
悔しくて、私は彼のタオルを顔に押し付け涙を吸わせる。
「俺なんか、そんなに泣かされて懲りただろ」
私の気持ちを勝手に決めないで。
私があなたのせいで泣いたのは、これが初めてじゃないんだから。
「じゃ、俺道場に戻るわ」
空気の動きと足音で、淳一が私から離れたことがわかった。
私は彼の足音が聞こえなくなるまで、タオルで顔を覆ったまま微動だにできなかった。
淳一のタオルから、当時と同じ匂いがする。
甘美な思い出を彷彿させる匂いを残しておいて、他の男と幸せになれなんてふざけてる。
私は精いっぱい怒ろうとしたけれど、タオルのにおいと抱擁の感覚のせいで、恋しさは一向に消えなかった。