先生の秘密
体育祭が終わり、下級生たちが文化祭へ向けて動き出した頃。
私たち三年生は、受験に向けてよりハードな学校生活を送るようになった。
塾や予備校に通う者が増え、放課後教室に残って勉強する者も多い。
私も放課後に残る派なのだが、今日は茜の誘いを受け、教室には残らずファストフード店にやって来た。
「茜はもう進路決めた?」
「うん。医学部の看護科。入れなかったら看護学校」
茜は看護師になることを目標にしているようだ。
私には夢がないから、進路もなかなか決まらない。
こうも毎日「進路進路」と言われていると、夢や目標がある人が、とても羨ましく感じる。
中学受験までして中高一貫の進学校に入ったけれど、何も目的のない私に大学進学する意味はあるのだろうか。
「それよりさくら。中山くんとはどうなってんの?」
唐突に投げられた茜の問いに、ポテトを摘もうとしていた手が止まる。
「どうもなってないよ」
夏休みが明けて以降、ずっと体育祭の準備でお互いに忙しかったから、本当に彼とは何もない。
茜は呆れた顔をした。
「告白の返事、まだ待たせてんの?」
「うん……でも、断ろうと思うんだ」
体育祭の前日、淳一に抱きしめられ、悲痛な本心を聞き、忘れようと言われたとき。
私は悔しさと悲しさで胸を痛めたのと同時に、幸せを感じていた。
何度中山の気持ちと優しさに救われても、結局淳一のことを想ってしまう。
だったらもう、中山のためにも、きっぱり離れたほうがいいと思うのだ。