先生の秘密

「だから、先生への気持ちをかかえたまま中山くんとは付き合えないと思うんだ」

中山との関係について、そう結論づけた私に、茜は納得いかない様子だ。

「それでいいの? おっくんと付き合える見込みがあるわけじゃないんだよ?」

「いいの。これは気持ちの問題だから」

前の相手に未練を抱えつつ、次の相手と付き合うことが悪いことだとは思わない。

だけど私は、中山には本当に幸せになってほしいから、本当に彼を好いてくれる人と付き合ってほしい。

淳一も私を好いてくれていたことがわかって、実のところ、私は舞い上がっている。

泣いて泣いて、悲しんで悲しんで、最後に残ったのは喜びだったのだ。

私が他の男に触られることを嫌だと言ってくれた。

彼自身とは進展がないとわかっていても、気持ちがつながっていることが嬉しい。

茜はアイスティーを飲み干し、やや苛立った感じでグラスをコースターの上に乗せた。

「じゃあ、おっくんに新しい彼女ができても、さくらはずっとひとり思い続けるのね?」

「え……?」

淳一に、新しい彼女?

「何その顔。おっくんだって若い男なんだし、すぐに相手が見つかるでしょ」

そんなの……考えもしなかった。

淳一が他の人と……なんて、想像すらしたくなかった。

『俺よりいい男と、幸せになれ』

あのとき告げたこの言葉の裏を返せば、

『俺もさくらよりいい女と、幸せになる』

という意味になる。

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