先生の秘密


数日後のこと。

「席着けー」

英語の授業に現れたのは、1年生を担当しているはずの淳一だった。

手には私たち3年が利用している教科書を持っている。

これは、まさか……。

「あれ、なんでおっくん?」

人気教師の登場に、クラスは期待で盛り上がる。

これを“嫌な予感”と捉えているのは、私だけかもしれない。

「この授業を担当している山口先生のお父さんがお亡くなりになって、急遽お休みを取られることになりました。明後日まで、この授業は俺が受け持ちます」

沸き上がる歓喜の声。

私の背筋は凍る。

嫌な予感は的中した。

「というわけで、早速授業を始めます。38ページを開いて」

彼に英語を教えてもらったことはあるが、授業をしている姿を見るのは初めてだ。

教壇に立つ姿、黒板にキレイな文字で書かれた英文。

英語の発音も上手い。

日本語で話すときより声が高くなるのが特徴的だ。

本当に、教師なんだな……。

「じゃぁここ。ボーッと俺に見とれてる椿」

「えっ?」

突然指名を受けて、ハッと我に返った。

みんながクスクス笑っている。

淳一の教師姿に見とれていたのは事実だ。

おかげで授業は何も聞いてない。

「ここ、何が入る?」

黒板に書かれた英文の一部がカッコでくくられている。

カッコ内のbeを適切な形に直せという問題らしい。

私は数秒眺めて、答える。

「will be?」

答えてはみたが、自信はない。

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