先生の秘密

教師モード全開の淳一は、心底ガッカリした顔で深くため息をついた。

「はい、残念。みんなもここ、引っかかりやすいところだから気をつけろー」

なによ、私が英語苦手だって知ってるくせに、引っ掛けるつもりでこの問題に指名したわけ?

授業を聞いてなかった腹いせ?

私は悔しい気持ちで淳一を軽く睨む。

淳一は涼しい顔でチョークを黒板に当てた。

「時と条件を表す副詞節に、未来系のwillは使わない。忘れやすいから、どっかにメモっとけ」

……あれ?

このフレーズ、どこかで聞いたことある。

『時と条件を表す副詞節には、未来系のwillは使わへん。忘れやすいから、どっかにメモっとけ』

『時と条件を表す……何節?』

『副詞節や。なるほど、そこからわからんか』

そうだ、これ……去年の夏、淳一に教えてもらったとこだ。

もしかして、それを覚えてて私を指名したの……?

私は教えてもらったことをすっかり忘れていた。

せっかく教えたのに、無駄になったって思われたかな……。

申し訳なくて、鈍く胸が痛む。

それ以降私は、特別に集中して授業を受けた。


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