先生の秘密
「今日は付き合ってくれて、ありがとね」
私がそう言うと、中山は照れを滲ませて笑った。
「こちらこそ。誘ってくれて嬉しかった」
ベンチに並んで座り、スポーツドリンクで乾杯。
一気にペットボトルの半分弱を飲み干した。
少し涼しくなったとはいえ、体を動かすと汗をかく。
今日彼を誘ったのは、バッティングをしたかったからという理由だけではない。
そろそろこのことについて、彼とも話しておかなければならないと思ったのだ。
「もう知ってるんだよね……私の、元カレのこと」
私が切り出すと、中山の笑顔が曇る。
「あー……まあ、うん。なんとなくふたりの間に何かあるような予感はしてたんだけど、的中して驚いた」
予感があったのは、淳一と彼の前で上手く振る舞えなかった自分のせいだろう。
自業自得ではあるけれど、気づかないでほしかった。
「先生とは、やましいことは何もないよ」
「それは、どういう意味で?」
「私の学校の名前なんて知らなかったはずだから、うちの学校に来たのは全くの偶然だし、再会してコソコソ付き合ったりもしてないという意味で」
中山は渋い顔で私を見る。
すべて事実だけれど、信じてくれているかはわからない。
「ていうか、私は嬉しくてすぐに会いに行ったんだけどね。その場ですぐに振られちゃった」
「それは、椿さんが生徒だから?」
「うん。私と付き合ってたことは、不都合だからなかったことにするって」
傷ついて、悲しくなって、腹を立てて、恋い焦がれて。
結局お互いになかったことになんてできなかったけれど、素直にそれを認めて前に進もうとしている。
「椿さん」
「なに?」
「提案があるんだけど」