先生の秘密
中山が覚悟を決めたような強い眼差しで私を捕らえる。
「提案?」
私が首をかしげると、彼は深くうなずいた。
「俺のこと、“彼氏”になんてしなくていい。その代わり、“都合のいい男”としてそばに置かない?」
「都合のいい男って……」
「先生に未練があるのは、もうどうしようもない。忘れるために俺を使えばいい。寂しくなったら俺を頼って。たくさん甘やかして、恋人同士の美味しいところだけを椿さんにあげる。してほしいことだけしてあげる」
なんてことを言うのだろう。
こんなにカッコよくて、女の子にもモテモテなのに、私なんかのためにそこまでプライドを捨てさせてしまっていることが悲しくて、目頭がつんと熱くなる。
「そんなの、ダメだよ……」
あなたには、愛される価値があるのに。
中山がふっと微笑み、汗をかいたペットボトルを脇に置く。
「ダメじゃない俺がそうしたいだけ」
ボトルの汗が流れるのと同時に、私の目からも涙が流れた。
中山の両腕が私を包む。
「ほら。こういうときは、こんなふうに」
淳一とは違う抱擁感だけど、嫌じゃない。
私は彼を、好きになれるかもしれない。
そっと抱き返してみる。
淳一よりがっしりした体躯に、思わずドキッとした。
「俺、独占欲強いんだ。彼氏ともなると先生のこと許せなくなると思うから、今は独占する権利なんていらない。ふたりでライトな関係から始めて、お互いに成長できたら次のステップを考えよう」
中山はすごい。
成長という言葉に、淳一のいない未来に希望が見えた。
私は人間的にまだ未熟で、初恋の相手に固執してしまっている。
でも成長すれば、きっと。