先生の秘密

「甘えるって、具体的にどうすればいいのかな?」

私が尋ねると、雄二はおかしそうに笑った。

「難しいこと聞くね」

「だって、小さい子供ならともかく、高校生にもなって誰かに甘えようだなんて考えたことないし」

思い付くのは「パパ、抱っこ」と両腕を伸ばす幼い子の様子くらいだ。

まさか彼に抱っこをねだるわけにはいくまい。

「俺にしてほしくなったことを、恥ずかしがらずに言ってくれたらいいんじゃないかな」

「例えば?」

「寂しいから構ってとか、怖いことから守ってとか、楽しいところに連れていってとか。その代わり、できる範囲で見返りが欲しい」

「見返り?」

「名前で呼び合ったり、手を繋いだり、抱き締めたり……嫌じゃなければ、それ以上のことも」

昨年の夏、淳一にアメリカには恋愛において“トーキング”や“デーティング”という関係があることを教えてもらった。

いわば本格的な恋人同士になる前のお試し期間で、恋人同士と同等のことをするのだが、正式なお付き合いではない……という、日本人から見ればなんともゆるい関係だ。

私たちが始めるのは、きっとそういう関係なのだろう。

私はそう納得して、立ち上がり彼へと手を差し伸べる。

「それじゃ手始めに、手でも繋いで帰らない?」

雄二は私の手を取り、にっこりと微笑んだ。

「よろこんで」


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