先生の秘密
「もうひとつは、奥田先生の寝言」
「寝言、ですか?」
「そう。寝言というか寝ぼけていたんだと思うんだけど。私を見てね、“さくら?”って呼んだのよ」
視界が、揺れた。
「お付き合いしている女性の名前なんだろうなと思っていたんだけど……」
疑いというよりは確信を持った顔で私を見る。
私と淳一がただの教師と生徒でないことはバレたも同然だが、彼女に本当のことを語る筋合いはない。
「私のことではありませんよ」
「そうかしら。今日の状況、普通なら家にまでは行かないと思うのよ」
「今日の奥田先生の様子を見たら、中野先生だって同じことをしたと思います」
淡々と言い返す私を、彼女は鼻で笑った。
「別に正直に言わなくてもいいのよ。学校にあなたのことを報告するつもりはないし。ただ、奥田先生に道を踏み外してほしくないだけ」
道を踏み外す。
つまり、生徒と恋愛関係になること。
そうではないから、苦しい思いをしてきたのに。
腹が立つけれど、淳一の立場を守りたいから下手なことは言えない。
「……私もそう思います」
彼女とは駅で別れた。
報告するつもりはないと言ってはいたが、彼女がどうするかはわからない。
私のせいで淳一が解雇されたりしないだろうか。
それが気がかりでならない。