先生の秘密

「あ!」

茜が何かを思い出したように叫んだ。

「どうしたの、急に大きな声出して」

「さくら、前に言ってたよね?」

「何を?」

「おっくんに、告白した子だよ!」

淳一に告白……ああ、思い出した。

秋に図書室で聞いた話だ。

「でもその子、彼女がいるからってフラれたはずだよ」

これはあの日、淳一本人にも聞いたから間違いない。

「フラれたからって、その場で諦めたとは限らないでしょ」

「そうだな。告白したってこの子とは、俺も知ってる。奥田先生への付きまとい方が異常だって、1年の間ではわりと有名らしい」

「付きまとい方が異常って……」

「もうほぼストーカーだって聞いた」

それだけ熱烈に彼を追いかけているなら、自宅を知っていても無理はない。

あの日は淳一も、発熱で午前のうちに早退した。

病気の彼は医者に行くなり薬を買うなりして、自宅に帰るだろう。

だからきっと、彼女は。

「先生の看病をして取り入るつもりだった」

……しかし淳一はうちの高校の制服を着た女子生徒を連れ込んだ。

私だ。

彼が彼女を振る口実に使った“彼女”が、私であると思ったに違いない。

私に強く嫉妬した彼女は、私のことを探り、雄二との関係を知った。

そして振られた腹いせに、私と淳一の両方を貶めるべく、裏アカウントに情報を提供した。

「ありえるな」

雄二が頷く。

「浮気云々はおいといて、この話が教員側に回ったら、おっくんヤバくない?」

茜の言葉に、頭がキンと冷えたのを感じた。

あの日中野先生を見たときに感じた不安がよみがえる。

これから淳一は、そして私はどうなるのだろう。


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