先生の秘密

再会したあの日に負った心の傷が疼く。

もう話しかけるなと。

私とのことはなかったことにすると。

彼はそう言ったことを悔いていると言った。

「彼女は生徒としてというより、古い知人として僕を助けてくれた。これで不自然な部分にもご納得いただけるのではないでしょうか」

理事長と校長、そして担任と中野先生。

沈黙がややあって、校長が口を開いた。

「納得はできました。当日何もなかったという証明には、なりませんが」

私にはもう、彼らが意地悪で淳一を追求しているようにしか見えない。

「本当に何もなかったのに……!」

だけど、それを証明できないのが悔しい。

私の言葉に、校長と理事長は気の毒そうな顔をした。

こんなことになるなら、淳一なんて見捨てて帰ればよかった。

苦しそうだったけれど、私が手伝ったりしなくても、淳一はひとりでどうにかできただろう。

淳一と再会した頃、あわよくばよりを戻したいなんて思っていた自分が恥ずかしい。

「椿はクラスの男子と交際していますし、学年では広く認知されています。過去はどうであれ、今奥田先生と……というのは考えにくいです」

雄二とのことを知っている担任がフォローをしてくれた。

「それにあの日、奥田先生は間違いなく高熱があったわけですから、そういう行為に至ったとも考えにくいと思います」

中野先生も、私たちを信じて応戦してくれた。

理事長が深く息をつく。

「わかりました。椿さんが傷つくようなことはなかったようですね」

よかった! 認めてくれた!

私たちがホッと胸を撫で下ろしたのも束の間、理事長は淡々と付け加えた。

「しかし、奥田先生については多少考える必要があるようです」

< 174 / 209 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop