先生の秘密
教室に入ると、中学からの友人である古川茜(ふるかわあかね)が私の席へとやってきた。
「おはようさくら」
「茜、おはよ」
茜とは中高の6年間で、3度めの同じクラスだ。
明るくて活発で、艶のあるショートボブがよく似合っている。
昨年も同じクラスだったが、また同じクラスになれて嬉しい。
ただひとつ、困ったことが起きてしまった。
「ねぇねぇ、今日もおっくんと会話しちゃった」
茜はミーハーで、始業式の日から淳一ファンだ。
「へぇ、何話したの?」
「髪の話。スタイリング剤、何を使ってるか教えてもらっちゃった」
嬉しそうにはしゃいでいる茜を見て、複雑な気持ちになる。
好意のままに話しかけられてうらやましい。
私は話しかけることすら許されていないのに。
淳一は1年のライティングの授業を持っているらしい。
私たち3年生の授業をすることはない。
顔が見られるのも、声を聞けるのも、朝の挨拶だけ。
私は少し重くなった口角を無理に上げる。
「そんなにはしゃいでいいの? 茜、彼氏いるのに」
茜は悪びれるどころか、逆に胸を張る。
「大丈夫。彼氏もおっくんファンだから」
淳一の人気ぶりに、ため息が出そうだった。