先生の秘密
「さくらも今度、一緒におっくんに会いに行こうよ」
何も知らない茜は、無邪気にそう言う。
淳一のことは誰にも話さない約束だ。
私は努めて笑顔で告げる。
「私、あの先生に興味ないし、わざわざ会いに行くのはちょっと」
茜はよほど彼が好きなのか、食らいつく。
「会って話せばさくらも絶対好きになるって」
「絶対って、すごい自信だね」
「だって、さくらの元彼に雰囲気似てるもん」
彼女のこの言葉に、頭から血の気が引いていくのを感じた。
同時にビクッと体が震える。
「……似てないよ、全然」
昨年、茜には、ひと夏の恋の話をしていた。
失恋を引きずっていた私を励ましてくれたのは茜だった。
見せろとせがまれて、トークアプリにプリクラの画像を送ったこともある。
冬にスマートフォンの機種変更をしたから、おそらくその画像を見ることはないだろうし、茜の記憶がよっぽどのもでない限り気付かれることはないだろう。
「あれ、さくらってばまだその彼を引きずってる?」
「……まぁ、多少は」
引きずっているというより、先日思いっきり振られて傷が新しくなってしまったのだけど。
「私としては、早く新しいコイバナが聞きたいんだけど」
「努力はするよ」
茜には悪いけれど、しばらく期待には応えられなさそうだ。
チャイムが鳴り、担任が来るとそれぞれが席へ着く。
今日も一日、高校生としての一日が始まる。
もし私があと一年でも早く生まれていたら、私と淳一には別の今があったのだろうか。
不毛なことを想像しては、密かにため息をついた。