先生の秘密
耳をつんざくような船の汽笛が、雄二の声を遮った。
「……ないか?」
肝心な部分だけまったく聞こえなかった。
口の動きを見てはいたけれど、彼が何を言ったのかはわからない。
雄二は何を……いや、どちらを提案したのだろう。
俺たち、ちゃんと恋人同士として付き合わないか?
俺たち、中途半端にしか付き合わないなら別れないか?
どちらも同程度可能性がある。
私は彼に聞き返そうとして、やめた。
ほんの気まぐれではあるけれど、ひとつ大きな賭けをしてみることにしたのだ。
「うん」
運命に身を委ね、微笑んで首を縦に振る。
彼が何を言ったかも、どちらを望んでいるかもわからない。
だけど私は、ただ彼の提案を受け入れようと思った。
汽笛を発した大きな船が岸から離れ、海原へと進んで行く。
そして夕日とともに、みるみる小さくなっていった。