先生の秘密
卒業式は、滞りなく予行通りに進んでいる。
ここ数日、私たちは同じような式典を数回繰り返してきた。
これまでと違うことといえば、胸にリボンを付けていることと、校長や代表生徒の話が長いことくらいだ。
練習通りのタイミングで一斉に立ち上がり、決められたタイミングで頭を下げる。
気持ちのない拍手をして、歌い慣れた歌を歌う。
周りにはすでに涙ぐんでいる生徒もいるけれど、私はまだ卒業の実感が湧いていない。
式典が終わり、あとは拍手で送られながら会場を出るだけだ。
「卒業生、退場」
予行通りに立ち上がると、吹奏楽部がしとやかな音楽を奏で始める。
自然に拍手が起こり、私たちは順に歩き出す。
そっちの方は見ないようにしていた。
見たら自分がどうなるかわからなかったから、あえてそっちを見ないよう、視線は常に前へ向けていた。
だけど、今日で卒業だから。
今日が最後の日だから。
私はそこへ、勇気を出して視線を向けた。
約3ヶ月ぶりに見る淳一は、穏やかな表情で拍手をしていた。
シワのないスリーピーススーツは今日のために用意したのだろう。
童顔だけれど、とてもよく似合っている。
私が見つめていると、ふと彼と目が合った。
すると淳一は、私に向けてやわらかく微笑んでくれた。
急激に胸と目頭が熱くなって、目に涙が溜まる。
微笑み返す余裕なんてない。
自分がこうなると思ったから彼の方を見るのを避けていたのに。
私は自分の気持ちに逆らえなかった。