先生の秘密

30代女性の養護教諭は、慣れたように拓也の足を冷やす。

「折れてはないと思うけど、病院に行きましょう」

先生の言葉に、拓也はあからさまに嫌そうな顔をした。

「えぇー、折れてなくても?」

「折れてないと決まったわけじゃないし、捻挫って案外厄介よ。ケガが長引くのは嫌でしょう?」

拓也はしぶしぶ頷く。

先生は書類を書いたり内線で職員室に連絡を入れたり、病院に連絡を取ったりと慌ただしく動き始めた。

拓也と茜が話し始めると、ジャケットを彼に返して役割のなくなった私は急に気まずくなった。

淳一には話しかけるなと言われている。

ただ先生やカップルの様子を眺めるしかできない。

それを察したのかは定かではないが、淳一はさりげなく私に新たな役割をくれた。

「女子二人はこいつの荷物持ってきてくれるか?」

短い時間だけど、私にも視線が向けられる。

教師としての顔も十分に魅力的で、不意に心が震える。

「はい」

私は先に返事をして、茜の返事を待たずに保健室を飛び出す。

そうしないと、淳一への気持ちに耐えられず、いち生徒としての顔を崩してしまいそうだった。

すぐに茜が私に追いついたが、しばらくの間、私は彼女に顔が向けられなかった。

「拓也の足、折れてたらどうしよう」

茜が不安げに言うが、余裕を失っている私は気の利いた言葉が返せない。

「大丈夫だよ。拓也の骨を信じよう」

「うん、そうだね」

本当なら拓也の怪我の心配をしなければいけないところなのに、私はほんの少しだが淳一と言葉を交わせた喜びに浸ってしまっていた。

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