先生の秘密
この日の放課後、茜は拓也の様子を見に家へ行くと言うので、私は学校に残って宿題を済ませて帰ることにした。
この学校は進学校であり、私たちは受験生だ。
毎日容赦のない量の宿題が出る。
私は苦手教科である英語から手をつけることにした。
英語は淳一の担当教科だ。
彼自身、高校と大学の間に何度か短期留学を経験しており、ビックリするくらい流暢に英語を話せる。
付き合っていた頃のデートの時、道に迷って困っていた外国人観光客を英語で助けているのを見て、惚れ直したのを思い出した。
夏休みの宿題を手伝ってもらったりもした。
彼の指導のおかげで、スムーズに宿題を終えることができた。
当時のことを思い出すと、また胸が熱く苦しくなる。
私はいったん深呼吸して熱を逃がし、宿題を続けた。
しかししばらくして、辞書引いても文法書を読んでもわからない問題が出てきた。
担当の先生に質問をすべく、テキストとノートを手に職員室へと向かう。
「失礼しまーす」
職員室に入り、文法の先生のデスクへ直行する。
1年生を担当している先生のエリアに、淳一がいるのを見つけた。
女子生徒が複数人質問に来ており、それに対応しているようだ。
その女子生徒と、昨夏の自分が重なる。
あの頃は私だけの先生だったのに……。
再び胸が苦しくなる。
私はできるだけ彼らを見ないようにして、自分の先生のもとへ急いだ。
そしてわからないところだけを手短に質問し、さっさと職員室を出た。