先生の秘密




「俺、さくらちゃんのこと好き」

淳一に告白されたのは、初めて彼に英語を教えてもらった日だ。

すごくドキドキしたし、すごく嬉しかった。

あの時のことは、まるで昨日のことのように思い出せる。

「私も好き。でも私、夏休みの間しか神戸にいないよ?」

私は高校生だし淳一も進路未定の大学生で、ゆくゆくは会うことすらままならない遠距離恋愛になる。

お互いに惹かれ合っていることは私も気づいていたけれど、自信をもって『恋愛関係を結ぶことがベスト』とは思えなかった。

迷いのある私に、彼は言った。

「じゃあ、神戸におる間だけ付き合おう。一緒にいられる間に、たくさん楽しい思い出を作ろう」

この言葉に、私の恋心は救われた。

お互いに好き合っているのに苦しいまま夏を過ごすよりは、終わりが見えていても幸せな夏にする方がいい。

私は恋愛といえばできるだけ継続するよう努めねばならないものだと思い込んでいた。

だけど『ひと夏だけ』というタイムリミットがあったからこそ、素直になれない私でも、彼への愛を思いきり表現できたのだと思う。

初めて手を繋いだときのこと。

初めてキスをしたときのこと。

初めて結ばれたときのこと。

私は今でも鮮明に覚えている。



ねぇ、先生。

なかったことにしてもいいから、教えてください。

この記憶を、消す方法を。



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