先生の秘密
教室にはもう誰もいなかった。
無駄に照明が点いている。
窓際の自分の席に着く。
音がやけに響いて、しんと静まる。
「疲れた……」
ため息混じりに呟き、窓の外を眺めた。
校庭の桜の花は散り、緑の葉が茂っている。
新緑は傾いた陽と風を受けてキラキラ光を反射している。
今回の模試は悲惨だった。
淳一がいたとはいえ、動揺しすぎた。
「椿」
突然名前を呼ばれ、肩が震えた。
声のした方を見ると、開いたドアのところに淳一が立っている。
思わず悲鳴のような声をあげ、座っているのに体が後退しようとする。
椅子に脚が当たり、派手に音が鳴った。
「じゅ……先生」
「そんなにビビんなよ」
標準語で話しながら教室に入ってくる。
距離が少しずつ縮む。
自分の鼓動が強くなるのを感じる。
「何かご用ですか? ていうか、話しかけないんじゃなかったんですか」
つい口調が強くなるが、淳一はまったく気にしていない様子でクールに言った。
「見たよ。模試の結果」
あの模試の結果を?
恥ずかしさで一気に顔が熱くなる。
淳一に私の動揺の大きさを知られてしまった。
私がまだ彼を意識していることが、バレてしまった。
「悪かったな」
「何がですか?」
「俺がいたから、集中できなかったんだよな」
わかっているなら、放っておいてくれたらいいのに。
集中できなかったのは自分のメンタルの弱さが原因だ。
淳一のせいじゃない。
謝罪なんかいらない。