先生の秘密

拍手の音が鬱陶しい。

もっと彼の声が聞ききたい。

もっともっと、あの教師が彼であると確信を得たい。

五感全部が彼に向かう。

彼がステージを降りた後も目が離せない。

まだ少年のような童顔に、似合わぬチャコールグレイのスーツ。

ネクタイは紅色系のストライプ。

軽くスタイリングされたマッシュヘアは、付き合っていた頃は茶髪だったが、今は艶やかな黒髪だ。

爽やかで、まさに新任の教師という感じがする。

胸が潰れそうなくらいにキュンと締め付けられる。

鼓動が治まらない。

彼の笑顔、繋いだ手の感触と体温、抱き合ったときの安心感とにおい。

優しいキスの感触。

奥の奥まで触れあったときの愛しい痛み。

頭いっぱいに彼との思い出が巡る。

涙が溢れそうになって、慌てて目に力を込めた。

私は本当に、淳一が大好きだった。

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