先生の秘密
春が終わり、6月。
横浜はここ数日、梅雨前線の影響で雨ばかりだ。
暦の上では夏になったが、まだ少し肌寒い。
衣替えで夏服になったけれど、朝晩は半袖ブラウスの上にカーデガンが欠かせない。
そんな上旬の昼休み、茜がこんな相談を持ちかけてきた。
「もうすぐ拓也の誕生日なんだ。プレゼント、何がいいと思う?」
「私に聞かないでよ」
恋愛経験の疎い私には、彼氏が彼女からもらうものとして、どんなものが喜ばれるかなんて想像もつかない。
それに彼氏の趣味は、彼女がいちばんよく知っているはずだ。
私も拓也とは友達だけど、彼の好きなものは「茜」以外によく知らない。
「さくらが冷たい」
茜が頬を膨らませる。
「候補はあるんでしょ?」
「靴が好きだからスニーカーとか、古くなってきた腕時計とか財布かなって考えたけど、選べば選ぶほど予算オーバーだよ」
悲しいかな、私たち高校生の予算はシビアに限られている。
そして我が校は、進学先が決定するまではアルバイトをしてはいけない決まりだ。
「靴とか時計とか財布って、下手に安物あげたくもないしね」
「そうそう。男子へのプレゼントって、女子と違ってアクセとかコスメでセンスごまかせないから、彼女としての品格を試されてる気になるよ」
茜は深いため息をついた。
彼氏持ちは彼氏持ちなりに悩みが絶えないようだ。