先生の秘密
現実問題、予算的にいい靴やいい時計、いい財布はあげられない。
だからそれらに関連した何かにしよう、という観点から、拓也が好きなスニーカーのケア用品がいいのでは、ということになった。
スニーカーのケア用品をスマホで検索してみると、案外たくさんの商品が見つかり、中には自分でもほしいと思えるものもたくさんある。
どれを選ぶかは、彼女である茜自身の仕事だ。
拓也のために一生懸命悩んでいる茜を見ていると、拓也が喜んでいる顔も想像できて、くすぐったい気持ちになる。
ふたりがうらやましいなと思っていると、茜が不意にこんなことを言い出した。
「さくらは最近浮いた話ないの?」
「……ほっといてよ」
忘れられなかった元彼が教師になって現れて以来、余計に彼が気になって他の人なんかに目が行かないんだよ。
そう口に出せないのが辛い。
「JK最後の夏を独り身で過ごすつもり?」
「別にあえて独り身でいるわけじゃないから。ていうか受験生だし、独り身でも不都合はないと思うけど?」
「厳しい受験を乗り越えるために、楽しみとか癒しが必要なんでしょ。告られたりはないの?」
「まったくございません」
寂しいけれど、JK最後の夏はこのまま元彼に心を揺さぶられながら受験勉強に勤しんで終わるだろう。
想像に難くない。
「さくら、密かにモテてるのに」
「いやいや、ないから」
淳一にも『モテへんやろ』と言われたくらいだ。
「ほんとだよ? 付け入る隙がないから遠巻きに見られてるだけだよ」
「隙?」
「そう。さくらって基本男子には塩対応だよね」
そんなつもりは、ないのだけど。