先生の秘密
午前中に降っていた雨は、いつの間にか上がっていた。
ボールの音が聞こえ始めたのを合図に、窓から淳一や男子たちの校庭バスケを眺める。
拓也の捻挫もすっかりよくなったようだ。
楽しそうにボールを追いかけている。
校庭には所々に水溜まりがあって、水が跳ねただの引っ掛かっただのと、いつもより盛り上がっている。
淳一も、濡れたボールをぶつけられ、ワイシャツが汚れたと騒いでいる。
私が「子供みたい」と言いかけたとき、先に茜が呟いた。
「おっくん、彼女いるのかなぁ」
私は反射的に茜の顔を見てしまった。
何か決定的なことを言われたわけではないのに、秘密に勘づかれたのかと思ってしまったのだ。
茜は私の視線に気づかずに校庭を眺めている。
よかった。特に意図があったわけではなさそうだ。
「何? 拓也から乗り換えるの?」
私の冗談に、茜が軽く笑う。
「まさか。おっくん、うちに来て2ヶ月も経つのに、浮いた話はひとつも聞かないなって思って」
「あー、そういえばそうだね」
私たち高校生は自分たちに限らず、教師のコイバナにも興味津々だ。
誰かがデート現場を見れば、次の日には学校中の噂になる。
この学校の生徒や教師は市内に住んでいる者が多いため、プライベートの目撃情報は頻繁に出るし、昨年の新任教師は赴任して2週間で恋人とのデート現場を押さえられていた。
私は耳をダンボにして淳一情報のアンテナを張っているけれど、今のところ特にプライベートな情報は聞いていない。
茜がおかしげに言った。
「あの見た目だし、まだ童貞だったりして」
「どっ……!?」
生徒の夏服と大して変わらないクールビズスタイルの彼は、もはや生徒にしか見えない。
老け顔の男子より、よっぽど若く見える。
だけど、さすがにそれはない。
私がいちばんよく知っている。
私を女にしたのは淳一だ。