先生の秘密
中山はそのまま教室を出ると思いきや、私の前の席にこちらを向いて座った。
「ねぇ、椿さん」
「え、なに?」
彼は緊張を滲ませた真面目な顔をしている。
いったい何を言われるのだろう。
「5歳年上の彼氏がいるって本当?」
尋ねられた瞬間、叫んでしまいそうになった。
どこからそんな情報を仕入れたのだろう。
昼間の茜との会話を聞かれていたのだろうか。
「昔の話だよ」
私が答えると、中山はすかさず次の質問を繰り出す。
「今は、彼氏いる?」
中山とは話をする機会も多いけれど、こんな話題は初めてだ。
「残念ながら、いないよ」
どうしてこんなことを聞くのだろう。
彼はいつもと着ているものも表情も違うから、別人のようで少し怖い。
中山が剣道をやる時、人格が変わるとは聞いていた。
普段は温厚な中山が、鬼のように竹刀を振る……と。
防具を身につけている彼は今、もしかしたらそっちのモードなのかもしれない。
「年上と付き合うって、どんな感じ?」
「どんなって、私恋愛経験少ないから、どう言っていいかわからないよ。あ、バイクで移動できたのは便利だったかも」
最初は怖かったけど、とは言わないでおこう。
「そっか。それは高校生にはなかなか真似できないもんな」