先生の秘密
中山は、少しだけ怒ったような顔をしている。
「いや、ハッキリ言わなかったのは俺だけど。椿さんってわりと鈍いんだな。新発見」
「え、ごめん。私、中山くんが年上の人を好きになったんだと思ってたんだけど、違った?」
「違うよ」
即答され、戸惑う。
私は何か気に障ることを言ってしまったのだろうか。
だとしたら申し訳ない。
中山が突然、机にのせている私の手を握った。
彼の熱い手に追い付こうとするように、私の全身の温度が急激に上がる。
「中山くん……?」
心臓が暴れている。
触れ合っている手から、彼の鼓動も伝わってくる。
目と目が合うと、視線を逸らせない。
中山は、ハッキリとした口調で言った。
「俺にも椿さんの彼氏になるチャンス、ある?」
告白じみた問いに、鼓動がより速くなる。
私はあまりに驚いて、何も反応ができなかった。
だって、中山とそのような関係になることなんて、今の今まで考えたこともなかったのだ。
とはいえ彼は十分に魅力的な男子である。
私みたいな恋愛経験の浅い女など、彼の手にかかればチョロいものなのでは。
報われない恋に苦しんでいる今、それを期待する気持ちまで沸いてきた。
私は浅ましくて卑しい女なのかもしれない。
何も答えられないまま時間が経過してゆく。
1秒間がすごく長く感じる。
――ガラガラッ……
教室の沈黙を破ったのは、誰かがドアを開く音だった。