先生の秘密

中山は、少しだけ怒ったような顔をしている。

「いや、ハッキリ言わなかったのは俺だけど。椿さんってわりと鈍いんだな。新発見」

「え、ごめん。私、中山くんが年上の人を好きになったんだと思ってたんだけど、違った?」

「違うよ」

即答され、戸惑う。

私は何か気に障ることを言ってしまったのだろうか。

だとしたら申し訳ない。

中山が突然、机にのせている私の手を握った。

彼の熱い手に追い付こうとするように、私の全身の温度が急激に上がる。

「中山くん……?」

心臓が暴れている。

触れ合っている手から、彼の鼓動も伝わってくる。

目と目が合うと、視線を逸らせない。

中山は、ハッキリとした口調で言った。

「俺にも椿さんの彼氏になるチャンス、ある?」

告白じみた問いに、鼓動がより速くなる。

私はあまりに驚いて、何も反応ができなかった。

だって、中山とそのような関係になることなんて、今の今まで考えたこともなかったのだ。

とはいえ彼は十分に魅力的な男子である。

私みたいな恋愛経験の浅い女など、彼の手にかかればチョロいものなのでは。

報われない恋に苦しんでいる今、それを期待する気持ちまで沸いてきた。

私は浅ましくて卑しい女なのかもしれない。

何も答えられないまま時間が経過してゆく。

1秒間がすごく長く感じる。

――ガラガラッ……

教室の沈黙を破ったのは、誰かがドアを開く音だった。

< 52 / 209 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop