先生の秘密
中山にドキドキしていたのが嘘のように冷めてゆく。
淳一は笑ってドアを閉めた。
私が他の男に口説かれているのを、笑ってスルーした。
嫉妬を露にしてほしかったわけではない。
ただ、一瞬だけでも動揺してくれたら、私は嬉しく思ったと思う。
淳一は、私のことなどもう本当にどうでもいいのだろう。
何とも思っていないのだろう。
性懲りもなく彼から私との過去が滲み出るのを期待したのが間違っていた。
私はあと何度、淳一への想いに傷つけばいいのだろう。
忘れられるなら忘れたいけれど、心がまだしっかりと淳一に縛り付けられていて、彼のいたドアから視線を外すことすらできない。
「椿さん?」
中山に声をかけられ、我に返った。
中山は私を見つめ、戸惑いの表情を浮かべている。
「ごめん。いろいろビックリしすぎて頭がパンクしてた」
私が無理に口角を上げると、中山は切なげに顔を歪めた。
「泣きそうな顔してるのは、俺のせい?」
「そんな顔、してる?」
私は笑っているはずだ。
現に今だって、懸命に口角を上げ続けている。
「してる。口は笑ってても、俺にはわかるよ」
その言葉から、彼がふだんから私をよく見ていることがうかがえる。
だけど泣きそうだと認めるわけにはいかない。
中山のせいではないと言うわけにもいかない。
必然的に、淳一のせいだとバレてしまう。