先生の秘密
梅雨が終わり、本格的に夏がやってきた。
あれから中山とはいつも通りだ。
もともと学校で少し話す程度だったから、何かを周囲に悟られることもない。
淳一とも相変わらず、朝の挨拶以外で言葉を交わすことはないし、妙に接近することもない。
この日の放課後、私は茜とファストフード店に入った。
そこで中山の話をすると、茜は目をキラキラ輝かせて食いついた。
「告られたぁ?」
「しーっ。声がデカいよ!」
「で? で?」
茜は狭いテーブルに身を乗り出し私に迫る。
顔を観ると、私がイエスの返事をしたものと決めてかかっているのがわかる。
「特に返事はしてない」
そう答えると、茜はあからさまにガッカリした表情になる。
「はぁ?」
「私にその気がないのを察したから、返事を聞かずに言い逃げしとくんだって」
「まさか、断るつもり? 中山雄二なんて超優良物件じゃん。断る理由がどこにあるの」
私はまだまだ恋愛には不慣れだ。
好いて好かれての恋愛への憧れを捨てきれない。
好きだという気持ちがないのに、相手のスペックが高いからといって食いつけない。
「好きでもないのに、急に付き合うなんてできないよ。本当はすぐに断るべきだったんだろうけど、途中で邪魔が入ったりして、何も言えなかったの」
「邪魔?」
あのときの彼を思い出すと、今でも泣きそうになる。
「奥田先生」
「え、おっくん?」
「うん。タイミング悪く教室に来たんだけど、察してすぐ出て行った」
あっさり私を中山に差し出した彼の笑顔を思い出すと、肺をわしづかみにされたように苦しくなる。
私は気を紛らわそうと、塩の効いたポテトをかじった。