先生の秘密
茜は納得いかない表情のまま「ふーん」と返す。
私に中山と付き合う気がないことが、そんなにも不服なのだろうか。
彼はたしかに魅力的だが、だからといって簡単に付き合っていい相手だとは思わない。
淳一との短いけれど体の芯まで焦がれるような恋愛を経験して、本当に人を好きになるという感覚を知った。
なんとなくの恋愛なんて、したくないのだ。
それを上手に伝える術を見つけられずまごついていると、茜は鋭く私の図星をつく。
「元彼、まだ引きずるの?」
「意図的に引きずってるわけじゃないよ」
「冷静に考えなって。元彼とはもう会えないんだよ?」
それに同調できたらいいのだが、あいにく毎朝顔を合わせているのが現実だ。
「そうかな」
「そうだよ。いつまでも夢見てないで、現実の幸せを掴みなって」
夢という言葉が、心の嫌な部分に響く。
その感覚から、自分が未だに夢を見ていることを自覚させられた。
淳一とのよりが戻るなど、現実的ではない。
頭ではわかっているけれど、「もしかしたら」と想像してしまうことは、今でも頻繁にある。
「幸せ、ねぇ……」
今はまだ、イメージができない。
「元彼を忘れるチャンスだよ」
現実に、身近に、私を好きだと言ってくれる人がいる。
「そうだね、もうちょっと前向きに考えてみようかな」
私がそう告げると、茜は安心したような顔をした。