先生の秘密
次の日の放課後。
いつものように茜と帰ろうとしていると、教室を出る前に中山に呼び止められた。
「椿さん、ちょっといい?」
私たちの間に起こったことを知っている茜は、何かを期待するような笑みを浮かべ、中山に私を差し出しひとりでさっさと帰ってしまった。
気を利かせたつもりなのだろう。
中山と二人になったのはあれ以来で、緊張する。
「どうしたの?」
私の緊張をよそに、中山は軽くかつ爽やかに告げた。
「デートのお誘い」
「デート?」
恋愛的なワードに、私はますます緊張してしまう。
「今度の祭り、一緒に行かない?」
「祭りって、次の土曜の?」
「そう」
この地域の夏祭りのうち、最初の祭りが今週の土曜に催される。
この学園の近くで開催されることもあって、ここの生徒はこぞってその祭りに出掛ける。
中山とのことは、前向きに検討すると決めた。
「私でよければ、ぜひ」
私がそう答えると、中山はぱあっと表情を明るくした。
「ほんと? やった! 断られると思ってたからすげー嬉しい!」
「あはは、大げさだよ」
私を好いてくれていることがわかって、心がむず痒い。
嬉しいけれど、少し怖い。
私たちはトークアプリのIDと携帯番号を交換した。
男子と番号を交換をしたのなんて、淳一以来だ。
「俺、今日部活ないんだけど、駅まで一緒に帰らない?」
「うん。土曜日のお祭りのこと、決めながら帰ろう」
男子と一緒に下校するのなんて、何年ぶりだろう。
私はまだ中山に恋をしているわけではないけれど、ドキドキする。
この分なら、早々に淳一への気持ちを忘れられるかもしれない。
そう思っていたのだが、生徒玄関を出てすぐのところで、二階の渡り廊下を歩く淳一を見つけてしまった。
目ざとい自分にうんざりしていると、淳一もこちらに気付いた。
私が私に告白していた男子生徒と並んで歩く姿を見て、淳一はどう思っているだろう。