先生の秘密
「どうしたの?」
中山が視線を上に向けている私に気づく。
私が淳一を見てしまうように、中山も私を見てくれているのだとわかり、恥ずかしさと申し訳なさを感じる。
「奥田先生がいるなって、見ちゃってただけ」
私たちから視線を逸らし、何食わぬ顔で廊下を渡っている淳一を指さす。
「ほんとだ。あの時のこと思い出して恥ずかしくなってきた」
淳一は今の私たちの様子を見て、私たちが付き合っていると思うだろう。
そしてきっと、これで私が自分に付きまとったりすることはないと、厄介払いができたと、密かに安心するのだろう。
……私はまだ、好きなのに。
中山に気づかれないよう、ゆっくりと切なさを吐き出す。
しかし中山が狙ったようにこう尋ねてきた。
「奥田先生ってさ、椿さんの元彼と同い年くらいだよね」
心を落ち着かせようと努力しているのに、私はまた焦らなくてはならなくなった。
いつかの茜との会話を思い出す。
いっそのこと、もう彼が本人であると言ってしまいたい衝動に駆られるが、グッとこらえて笑顔をキープする。
「うん。たぶん」
「いいなって思ったりした?」
「先生だし、そういう目で見たことなかったな」
中山は私の嘘の答えを聞いて、「あはは」と軽く笑った。
「そっか。そうだよな。でも安心した」
「え?」
「奥田先生、俺も好きだし。あの人がライバルってなると、勝てる気しねーなと思って」
中山はたぶん、自分がモテていることを自覚している。
そのうえで、いい加減な恋愛をせず、私に好意を寄せてくれている。
彼はきっと、本当に優しくて誠実なのだ。
それはたぶん、淳一より、ずっと。