先生の秘密
淳一と付き合っていた頃、一度だけ一緒にお祭りに出かけたことがあった。
世話になっていた叔母に従姉の浴衣を着付けてもらって、髪は従姉がセットしてくれた。
「さくら、浴衣めっちゃ似合うなぁ。惚れ直した」
淳一がそう言ってくれて、すごく嬉しかったのを覚えている。
暑かったけれど、私たちはしっかり手を繋いで祭りを楽しんだ。
浴衣の私に合わせてゆっくり歩いてくれたり、疲れたことに気づいて休ませてくれたり、淳一は私のことをよく見てくれていた。
私はきっと、ちゃんと愛されていた。
教師と生徒になってしまった今、淳一への気持ちは忘れるべきなのだろう。
だけど当時の大切な思い出は、忘れたりしたくない。
週末。
中山と祭りへ出かけるための準備を始める。
紺色の浴衣を自分で着てみたが、帯だけがどうも上手く結べず、母に結んでもらった。
髪も自分で簡単にアップにする。
我ながら上手にできたお団子の根元に、和風の飾りをつけた。
もし淳一が今日の私を見たら、また惚れ直してくれるだろうか。
そんなことを考えてしまった自分は、きっと嫌な女だ。
今日は淳一ではなく、中山とのデートなのに。
支度を終えると、待ち合わせ時間に十分に余裕をもって家を出た。
慣れない下駄は歩きにくいし、人も多い。
いつもより時間がかかるのは明白だし、人を待たせるのは苦手だ。
待ち合わせ場所に着いたのは、待ち合わせ時間の10分前だった。