先生の秘密
数分後、中山が到着。
「俺の方が早く来るつもりだったのに、待たせてごめん」
「私が早く着きすぎただけだよ」
「浴衣、すごく似合ってる」
中山はそう言って、私が照れる前に顔を赤くした。
「ありがとう。中山くんは、私服も爽やかだね」
彼はシンプルにTシャツ&ジーンズだ。
制服とも防具とも違うプライベートな雰囲気に、デート感が増してドキドキしてきた。
「じゃあ、行きますか」
「うん」
人の波に乗り、ゆっくり会場へと移動する。
中山は淳一よりも背が高い。
剣道で鍛え上げられた筋肉質な腕が、たまに自分の腕と触れ合う。
人が多くてはぐれそうだけれど、私たちはまだ付き合っているわけではないから、手は繋がない。
付かず離れず、と表現するには少し近い距離を保つ。
私、あの中山雄二とデートしてるんだ。
そう思うと、週明けの女子たちの視線が怖い。
同じ学校の生徒がたくさんいるし、クラスメイトや同級生にも遭遇するだろう。
そうなったら、私たちは学年中の噂になる。
これは彼とのことを前向きに考えるためのデートだ。
女子に睨まれることも、噂になることも、承知の上で臨んでいるわけだが、それを近い将来のこととして捉えると、ちょっぴり怖くなってきた。
淳一と付き合っていたときは、周囲に私の知り合いはほとんどいなかったから、その点では気楽だった。
でもたぶん、淳一は違った。
きっと「女子高生に手を出した」などとからかわれていたに違いない。
もしかしたら淳一にとってあの1ヶ月は、私が感じたほど幸せではなかったのかもしれない。
そう思い至って、胸が痛くなった。