先生の秘密
中山とのデートなのに、淳一のことばかり考えている。
それではいけない。
私は淳一を頭から追い出すように、もう一度中山に目を向けた。
ちょうど目が合い、中山が照れる。
私はなんとなく罪悪感を覚えながら、それをごまかすように口角を上げた。
普段なら5分ほどで移動できる道を15分かけて歩き、祭り会場として歩行者天国になっている道まで、ようやくたどり着いた。
道の左右に露店が並び、隙間を人が埋め尽くしている。
今年も大にぎわいだ。
「やっぱ人多いなぁ。椿さん、大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ」
これほどの人混みの中を浴衣で歩くのは気を使う。
帯が崩れたら最後。
自分では締めることができない。
「靴が脱げたりしたら言ってね」
「ありがと」
中山はずっと私を気遣ってくれている。
浴衣の私が歩きやすいよう人混みから守ってくれているのがわかるし、酒に酔ったガラの悪い男性集団が近づくと、庇うような位置で歩いてくれた。
安心感と照れ臭さで、どんな顔をしていいかわからない。
「腹へった。何か食べようぜ」
「そうだね、何食べようか」
通りにずらりと並ぶ出店を、楽しく物色していた時だった。
「中山じゃねーか」
聞き覚えのある中年男性の声に中山の名が呼ばれ、私たちは条件反射で声の方を向く。