先生の秘密
名を呼んだ主を認識した中山は、途端に焦ったような顔をした。
「げっ! 先生!」
私たちの背後にいたのは、数学教師の萩原(はぎわら)先生だった。
今年は一年生の担当で、剣道部の顧問だ。
「げって何だよ。女連れて歩きやがって」
「こんな日なんだから、女連れてたって別にいいでしょう? つーかなんでいるんすか」
中山は部長だったこともあって、萩原先生とは軽口を叩き合えるほど仲がよさそうだ。
「知らないのか? 毎年この日、うちの学校は一年の男性教師全員で巡回してるんだよ」
萩原先生は私たちに『補導員』の腕章を見せつける。
私は思わず辺りを見回した。
人と人がひしめき合っており、知らない顔ばかりが私たちの周りを流れていく。
その中に純一と思われる顔はないが、彼もこの会場のどこかにいる。
「知らないっすよ。俺、まともにこの祭りに来るの初めてなんで。てか巡回する意味あります?」
中山が首をかしげる。
うちの高校は真面目で勤勉が売りの、いわば名門進学校だ。
非行を犯す生徒がそうそういるとは思えない。
「いくら我が校の生徒でも、祭りでは酒飲んだりタバコ吸ったりするやつが出るんだよ。そういうやつの補導だな」
「へぇ」
「お前、タバコ吸ってねーだろうな?」
「俺は吸わないっす。スポーツマンなんで」
「ホントか? 女連れてるくせに」
「だから別にいいでしょう。僻みですか?」
「馬鹿野郎。俺には愛する妻と毎日一緒に暮らしてるんだぜ。僻め」
「僻めってなんですか」