先生の秘密
教師と生徒として、こんな風に会話ができるふたりの関係が羨ましい。
純一だって、せめて楽しく会話を楽しめる程度に仲良くしてくれてもいいではないか。
それもしたくないくらい、私とのことを後悔しているのだろうか。
そんなことを考えていると、ふと萩原先生の顔がこちらを向いた。
純一とのことがバレてしまったような気になって、肩が震える。
「すまん。名前はわからんが、君もうちの生徒だな」
「は、はいっ。中山くんと同じクラスの椿です」
高校部に入学してから今まで、彼とは言葉を交わしたことなどない。
それでも私を生徒として認識していたのだからすごい。
「じゃあ俺は行く。ちゃんと10時までに帰れよ」
「はい」
萩原先生は手を振り、笑顔を見せて去っていった。
「まさか、しょっぱなからあの人に見つかるとは。卒業までイジられそうだ」
中山が気の抜けた顔で呟く。
「卒業まで、まだ半年以上あるね」
私がちょっとした意地悪のつもりでそう言うと、中山はニッと口の端を上げた。
「その間ずっとあの先生にイジってもらえるような関係を、俺は狙っているわけだけどね」
予期していなかった反撃に、胸が鳴り顔が熱くなる。
「前にも言ったけど、チャンスが欲しいから返事は急がない。今度こそ、出店巡ろう」
「うん……」
ふたりで出店をいくつか巡った。
当たり障りのない会話と微妙な距離感に、ある種のじれったさを感じる。
それはきっと、昨年純一とあっという間に恋に落ち、すぐに関係を進展させたからだろう。
私は此の期に及んでまだ純一と中山を比較してしまっている。
本当に、嫌な女だ。