先生の秘密
お互いのことを話しながら、出店をひと通り回った。
ソースや煙の食欲をそそる匂いに釣られ、さらには砂糖の焦げる香ばしい香りに誘われる。
腹部を帯でしっかり締め付けているのに調子に乗って食べすぎて、少し苦しい。
デートなのにこんなに食べて、はしたなく思われたかもしれない。
慣れない下駄でずっと歩いているから、だんだん足が辛くなってきた。
私の疲れに気づいてくれた中山が「座れるところでちょっと休憩しよう」と提案してくれた。
彼は素晴らしく気が利く。
「ありがとう。すごくありがたい」
「祭りはある程度満喫したし、俺も歩き疲れた」
会場付近は人で溢れているため、落ち着ける場所などないだろう。
そう考え至り、私たちは学校の近くにあるイートインスペースを完備したコンビニまで足を伸ばした。
祭り会場から少し離れており、駅とも逆方向になるこのコンビニには、狙い通り利用客が少なく、イートインスペースを利用できそうだった。
無事に足を休められそうだ。
店の入り口まで、あと数メートルというところまで来たとき。
「あ、雄二じゃん」
再び中山を呼ぶ声がした。
視線を向けると、今度は先生ではなく、私も見覚えのある男子ふたりだった。
名前まではわからないが、彼らは私たちの同級生だ。
しかしふたりの手の指には、それぞれ火の灯ったタバコが挟まれている。
「お前らも来てたんだ」
「いや、今から行くとこ」
「つーかてめー女連れかよ」
「うらやまー」
どうやら彼らは、中山とはとても親しいようだ。
「えっと確か、椿さんだよね?」
名前を知られいることに驚いた。
「う、うん」
同じクラスになったこともないし、取り立てて目立つ存在でもない私を、彼らはどこで知ったのだろう。
「付き合ってんの?」
こういうとき、反応に困る。
あまりすぐに否定してしまうと、中山の面子を潰してしまうかもしれない。
私は判断を仰ぐように中山に視線を向けた。