先生の秘密
「いや、付き合ってはないけど」
中山は「察しろよ」と表情に込めて告げる。
ふたりはちゃんとそれと私たちの微妙な雰囲気を汲んで、冷やかしたりせずに「そっか」と曖昧に笑うだけにとどめてくれた。
助かった。
タバコを吸ってはいるが、彼らはいい人たちだ。
「つーかお前ら、タバコやめとけ。先生たち巡回してんぞ」
中山の忠告に、彼らは短くなったそれを灰皿に落とした。
「マジか。ここまで来るかな」
私はタバコを吸おうと思ったことはないし、在学中に飲酒をしてみようとも思わない。
やましいとわかっているならやらなきゃいいのに。
「わかんねーけど、会場で会ったら臭いでバレそうだな」
「やっべ。タブレット食っとくか」
「もうおせーよ」
聞き覚えのある声がして、私たち四人は一斉に顔をそちらに向けた。
声の主を目で確認した瞬間、いや、その声が聞こえた瞬間、私の心臓は強く鼓動を刻み始めた。
「おっくん!」
そこに立っていたのは淳一だった。
見覚えのあるTシャツとデニムを着ている。
腕には萩原先生も着けていた「補導員」の腕章もある。
それがなければ、彼こそ高校生に見える。
淳一はふたりの耳を掴んで引っ張った。
「いててててててて!」
当たり前だが、タバコを吸う生徒に容赦はない。
「はい、没収」
淳一が手を出すと、ふたりは観念して持っているタバコを差し出した。
そして私たちの方に視線が向く。
「お前たちは?」
答えたのは中山だ。
「俺らは吸わないっす」
一瞬よりは少し長い時間、淳一と目が合う。
「……そうか」