先生の秘密
非行がバレて気まずそうにしているふたりの前で、淳一はわざとらしく自分のタバコに火をつけた。
銘柄は昨年と変わらずキャメルメンソールだ。
香ばしい煙に混じる独特の甘い香りが、私と中山の方にも届く。
私は懐かしい気持ちになり、体に悪いとは知りつつ、密かに深く吸い込んだ。
淳一は煙を吐きざまに語りはじめる。
「まあ、さすがに何が悪いかはわかってると思うから、くどくど説教はしねーけど。ダセーことすんなよ。モテねーぞ」
タバコを吸うことはカッコいいことであると思っているであろう二人は、顔を上げて淳一の方を向いた。
「おっくんだって吸ってんじゃん」
「俺はいいだろ」
「成人だから?」
「そうだ」
また一口吸い、私たちの方に煙が来ない方向に吐く。
その仕草すら昨年の夏を思い起こさせて、まるで淳一がわざとやっているのではないかとすら思ってしまう。
「けどまあ、“成人してるから”は教師としての回答」
「どういう意味?」
そう問うた彼らに、淳一は没収したタバコの箱を見せつける。
「我が校は誇り高き名門進学校。アルバイトは禁止だよな」
「はい」
「じゃあこのタバコは、誰かにもらった小遣いで買ったものだよな?」
「……はい」
「覚えとけ。もらった金でタバコを買う野郎は、もらったタバコしか吸わないセコい野郎と同じだ。たとえ成人しててもダセーんだよ」