先生の秘密
声をかけた教師は「はいはい、奥田先生ね」と呆れた声で漏らし、奥へと歩いていった。
ミーハーな女子生徒が若い教師に目を付けたとでも思われているのだろう。
彼が淳一を呼ぶ声が聞こえると、私は顔が見えないよう、顔を伏せて彼を待つ。
「えっ、僕ですか?」
「そう言ってたよ。さっそくファンがついたかな」
「ははは、そんなまさか」
淳一と男性教師の会話が聞こえる。
もうすぐ、来る……!
ドキドキが止まらない。
体中が鼓動に合わせて波打っている。
こんなに緊張するのは何年ぶりだろう。
淳一のものと思われる足音がすぐそこまで近づいてきた。
息が止まりそうだ。
足音が止まったところで、私はゆっくりと顔を上げる。
距離にして1メートルほどのところに立つ新任教師は、わたしの顔を見るなり目を皿のようにした。
「さくら……!」
恋い焦がれた声による愛しい響きに、思わず目が熱くなる。
私は彼以外には聞こえないくらいの小さな声で呼び返した。
「じゅん……久しぶり」