先生の秘密
淳一はそう言い切って、没収したタバコをふたりに差し出した。
だけどふたりはそれを受け取らない。
淳一の話を聞いて、今その箱を受け取ることは、とても恥ずかしいことであるとわかったからだろう。
「さすがはうちの高校の生徒だな。お前たちを誇りに思うよ」
淳一は安心したように差し出したタバコを引っ込めた。
大人が子供を制御するために理不尽な御託を並べて縛り付けるのとは違う説教に、ふたりはちゃんと納得したようだ。
「おっくん、さっき“教師としての回答”って言ったよね?」
「そうじゃない回答って、なに?」
彼らの問いに、淳一は短くなったタバコを灰皿に落としてから答えた。
「例えばな。もしお前らが毎朝3時に起きて、学校で唯一認められている新聞配達のバイトで稼いだ金で買ったなら、俺は没収しないし“ダサい”とも言わねーよ。教師ではなく、男としては、な」
「おっくん……」
「まあ、残念ながら俺はお前らの教師だから、こうする以外ないけどな」
手に持っていたタバコの箱を握りしめ、そばのゴミ箱へ放り込む。
ふたりはまた少し反省の色を示しながら、静かにそれらがゴミ箱の底へ落ちる音を聞き届けた。