先生の秘密
中山はまるで好きな食べ物の話でもするときのようなトーンでそう言った。
「ちょっ……中山くん!」
私の顔はみるみる熱くなっていく。
彼は自分の気持ちを口に出すのが怖くないのだろうか。
淳一に宣言した意味がわからない。
まさか、誰かに宣言することで外堀を固め、私にプレッシャーをかける……などと高度なコミュニケーション戦略を実施いるわけではあるまい。
中山は私の呼びかけには応答せずに続けた。
「でも椿さんは、その元カレのことを忘れられないみたいで」
こんなところでなんてことを……!
私の気持ちを、まさかこんな形で暴露されてしまうとは想像もしていなかった。
「俺、元カレに勝ちたいっす」
そう言い切った中山の声が周辺に少しだけ反響する。
直後しばし沈黙し、小さく祭り会場の喧騒が耳に届く。
中山はこの先生こそがその元カレなのだとは知らない。
とはいえ、さっき会った萩原先生にならともかく、淳一にだけはこんな話、してほしくなかった。
そしてたぶん、それは淳一だって同じだ。