先生の秘密
返す言葉が見つからなかったのか、中山はいったん悔しげに口を結んだ。
中山の発言を聞いていて、「元カレに勝ちたい」という部分には私も疑問を抱いていた。
まるで私との関係を形成していくことより、元カレではなく“自分を選ばせる”ことが目的になっているように感じたからだ。
元カレ本人である淳一がその部分を指摘してくれたことは、素直に嬉しい。
「……勝ちたいって思うのは、いけないことですか」
「気持ちはわかる。でも“勝った”と思うのは自己満足でしかないだろ。自己満足のために相手が好きになった人間を“負け犬”にするのは、どうなんだろうな」
淳一の言い分は教師としてのアドバイスなのだろうか。
それとも元カレのプライドなのだろうか。
わからなくてモヤモヤする。
「俺、まだまだっすね」
淳一と張り合おうとしていた中山が、諦めたように笑って告げた。
「……そういう意味では、俺もだけどな」
「え?」
「偉そうにそう言ってる俺も、勝ちたがることがあるってことさ」
それはもしかして、中山を言い負かした今の状況のことを言っているのだろうか。
今日の淳一は、やけに私を期待させる。
もしかして、彼も私に未練があるのかもしれない。
そう思わずにはいられない。