先生の秘密
「俺と付き合っちゃえばいいよって言いたいところだけど、俺は真剣だし、無理強いしても意味ないしね。気持ちの整理、ついてからでいい」
中山は、私が彼のことを前向きに考えていることをわかってくれている。
だから強引に迫ることもしないし、諦めの言葉を口に出すこともない。
「うん、ありがとう」
そしてごめんなさい。
私もあなたの誠意に応えたい。
だけど、今はそれができないことを、本当に申し訳なく思っています。
「でも少しだけ、俺のわがまま聞いてもらっていい?」
中山が、そう言って私の左手を取った。
「なに?」
握られてる手を強く引かれ、私は中山の胸に飛び込んだ。
体を包まれる感覚がして、動きが止まる。
私は彼の腕の中に収まっていた。
浴衣越しに彼の体温と鼓動が伝わってくる。
彼の心音は、私のものよりずっと速いビートを刻んでいる。
「中山くん……?」
「ちょっと、甘えさせて」
「……うん」
私も腕を彼の背に回してみる。
淳一とは違う抱き心地に、少しだけ戸惑う。
「椿さんも俺に甘えていいんだよ。片想いの辛さ、わかるからさ」
私は何も答えない代わりに、キュッと彼のTシャツを握り、彼の胸に体を預ける。
人の体温は心地いい。
失恋の傷や寂しさを別の人で癒そうとする人がいるのも、わからなくはない。
私は、中山が許す限り、この微妙の関係は続くだろうと思った。