先生の秘密
相変わらずの童顔だ。
スーツでなければ生徒と間違われることだろう。
あの頃とは違って黒髪だし、髪型も少し違う。
だけど、彼は間違いなく、私が愛した奥田淳一である。
お互いを確かめるように見つめ合って沈黙している間に、学校特有のチャイムが鳴る。
鳴り終わったタイミングで、彼が静かに告げた。
「ちょっと来い」
彼の声では聞き慣れない、標準語のイントネーション。
私の知っている彼は神戸弁だ。
違う人を装われているみたいだし、怒っているような低い声だった。
二人で人気のない校舎の裏に移動する。
歩いている間、何度も横目で淳一を見たが、彼はずっと険しい顔をしていた。
私が会いに来たのは迷惑だったのだろうか。
再会を喜んでいるのは私だけなのだと突き付けられているようで、だんだん気が滅入ってくる。
だけどできるだけいい再会にしたくて、私は無理に笑顔を作った。
「じゅんがうちの教師だなんて、ビックリだよ」
せっかく明るい雰囲気で言ったのに、淳一は視線を合わせようとすらしない。
眉間にしわを寄せ、本当は丸い目を細めている。
「俺だってさくらがこの高校の生徒とか……驚いたわ」
本来の話し方をしてくれたことに、少しだけ安堵する。
しかし、あまり好意的な言い方ではなかった。
ズキンと胸が鈍く痛み、私は密かに泣きそうになる。
それでも笑顔は崩さない。
「横浜に来るなら、連絡くれればよかったのに」
私の言葉に、淳一は長いため息をついた。