先生の秘密
今日も講習が終わった。
私はいつものように茜に声をかける。
「茜、帰ろう」
だけど茜は、両手を合わせ申し訳なさそうに言った。
「ごめんさくら。今日は先約があるんだ」
「あ、そうなんだ。拓也とデート?」
何気なくそう尋ねると、茜は妖しい笑顔を浮かべた。
そして私の耳元に口を寄せ、小声で告げる。
「中山くんに呼び出し食らってるんだ。たぶん、さくらのことで相談だと思う」
意外な先約の相手に、思わず声が出そうになった。
あれからも私がハッキリしないから、外堀から埋めてゆくつもりなのだろうか。
「……なんかごめん」
「謝ることないよ。あのモテ男がどんな相談を持ちかけるのか、楽しみで仕方ないんだから」
「いや、それはどうかと思うけど」
茜は意気揚々と教室を出ていった。
中山の姿は、すでにない。
今の私の状態はよくないと、わかってはいる。
元凶は淳一への気持ちを整理できてないことだ。
だから、決心した。
夏の間に淳一への気持ちを断ち切ろう。
たとえできなかったとしても、そのための努力をしよう。
忘れよう忘れようとむやみに念じて余計に恋しさを募らせるより、思い出を大切にしたまま、それが過去のものだと自分に認識させてゆくのだ。
淳一本人と顔を会わせる機会がほとんどない夏休みこそ、ベストなタイミングだろう。