先生の秘密
話し方が戻ったからといって、気まずさは拭えるものではない。
4月に言われたことを私は忘れないし、プライベートだからって元のままでいいよと言われても、余計にモヤモヤする。
「バイクで来とるし、送ってくわ」
淳一が軽い雰囲気でそう言った。
「……え?」
今、何て言った?
「せやから、送るって」
いったい何を言い出すのか。
教師としての節度を守るために私とのことをなかったことにするんじゃなかったの?
「いいよ! 学校の人に見られたら困るでしょ?」
「メットかぶるしバレへんて」
淳一の顔がふと不安げに歪んだ。
私の胸に、ぶわりと熱い感情が湧く。
彼は今、私と関わりたいと思ってくれている。
そして私が彼を拒否することを恐れている。
それがわかって、たまらない気持ちになった。
「……じゃあ、お言葉に甘えて」
私がそう答えると、淳一は安堵したように笑った。
駐輪場へと歩き出した淳一を追う。
期待させるようなことはしないでほしい。
昨年のことをなかったことにしたいなら、ずっと他人のフリをすればいいのに。
もう勘違いして傷つきたくない。
だけど、ここで会えて嬉しい。
プライベートの淳一が先生モードでなくて嬉しい。
勘違いはしたくないけど、私は特別だって思いたい。
叶わない恋を捨てきれなくてつらい。