先生の秘密
駐輪場には自転車に混じってバイクが1台駐まっていた。
横浜ナンバーのビッグスクーターだ。
「バイク変わってる」
昨夏、彼のバイクは単車だった。
わりと年季が入っていて、不調を起こさないためにこまめな手入れが必要だと言っていた。
「前のやつ、こっちに乗って来る途中でとうとう壊れてん。高速で完全に止まるのは困るし、いったん高速降りて近くのバイク屋に駆け込んだ」
「兵庫からバイクで来たの?」
「足がないと不便やからな。まぁ、結局買い換えるはめになったけどな」
思い出のバイクがなくなって寂しい。
だけどとにかく、彼自身が無事でよかった。
淳一はシートを起こしメットケースからヘルメットを取り出した。
見覚えのあるヘルメットに、また心の奥が震えた。
「乗れるか?」
「微妙」
車体が前のバイクより大きいから、どうやって乗ればいいかわからない。
制服だし、あまり足を上げると見せてはいけないものを見せてしまいそうだ。
「しゃーないな。よっ!」
「きゃっ!」
淳一が私を両脇から抱え、タンデムシートに乗せた。
「相変わらず鈍いな」
そう言って、ポンとヘルメットをかぶせる。
ヘルメットの顎紐は、前に私が使ったときのままの長さだ。
つまりこのヘルメットは、たぶん私しか使っていない。
「……うるさい」
私は嬉しさを悟られないよう、ぶっきらぼうに返した。