先生の秘密
「連絡なんかせーへんよ」
「なんでよ。知り合いなのに」
「俺、高校教師やし、さくらは高校生やん」
「そうだね」
「その意味わかっとんか?」
質問の意味がわからない。
私が首をかしげると、淳一はまたため息をつく。
あからさまにため息をつかれると悲しい。
やはり私が会いに来たのは迷惑だったのだ。
彼が私との再会を喜ばしく思っていないことは、もう十分にわかった。
一人で喜んで、期待した自分がバカみたい。
「しかも、まさかのうちの生徒やん」
「うん……」
なんかごめん、と謝りたくすらなる。
「生徒の中に元カノがおるとか……なんなんこれ、少女マンガか」
淳一が皮肉にも私と同じことを思って嘲笑する。
「そこまで迷惑がられるなら、私、会いに行かなきゃよかったね」
元カノだから成績上げてもらおうとか、テストの問題を教えてもらおうとか、そんなつもりは毛頭ないし、淳一に迷惑をかけるつもりではなかった。
ただ、私がここにいることを知ってほしくて。
私は今でも好きなんだと、察してほしくて。
たとえ淳一がもう私のことをなんとも思ってなくても、同じ学校で顔を見られることが嬉しいと、伝えたかった。
「迷惑がっとうわけやないけど……」
泣きそうな声を出した私にたじろいだのか、淳一は小さくそう前置きする。
しかし、次にはキッパリとこう告げた。
「俺らが付き合ってたことは、なかったことにする」