先生の秘密

彼の気持ちに応えたいと、思ってはいる。

だけど淳一との恋の思い出が美しすぎて、中山に同じものを求めてしまうような気がする。

そうなると申し訳ないから、勇気が出ない。

だから、私は。

「元カレとの思い出の品を、全部捨ててみたの」

「え?」

「いつまでも心の中に居座る元カレと、いつまでもウジウジしてる自分にムカついて、捨てたの」

中山は笑顔のまま首をかしげる。

「で、心境に変化はあった?」

「スッキリした……って、なるはずだったのに」

大切な思い出を捨ててしまった罪悪感で、すでに後悔しつつある。

モノを捨てたところで、記憶はなくならない。

自分のメモリ容量を埋めるように勉強に打ち込んでみてもなくならない。

茜にはスッキリして勉強に集中できたと言ったけど、本当は忘れるために頑張っていただけだ。

失恋はそんなに甘くないのだと思い知らされているみたいだ。

「わかった」

中山がそう言って立ち上がった。

あまりにグズグズしている私に呆れて怒った……?

おそるおそる彼を見上げる。

彼がまだ笑みを浮かべているから、私はとりあえず安堵した。

「それじゃあ、スッキリしに行こうか」

「え?」

中山はそう言って食べ終わったトレーを片付け、私の手を取って歩きだした。

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